【つくるをつなぐ】filo(フィーロ)

【つくるをつなぐ】filo(フィーロ)

【つくるをつなぐ】

地域でつくられたものを地域でつかう。
「つくるをつなぐ」はそんな世の中の動きを、
食材のみならず工芸やクラフト分野へも広げていく試みです。
器の作り手と料理人の出会う場づくりに向け、
それぞれの仕事の世界をウェブ上でご紹介していきます。

料理人編 Vol.1

短角牛のステーキからひもとく
filoの流儀
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盛岡市の南、古い町並みが残る河南地区。

その一角、猫たちがのんびり棲息する静かな小路。

大人気のわんこそば店も程近いその場所に「filo」はある。

瀟洒な土蔵造り。以前は美味しい酒と肴が楽しめる通好みの居酒屋だったこの場所を改装して、2019年4月25日にオープンした。

オーナーシェフは中村昌さん。
市内の人気ダイニングバーで8年間、料理長として腕をふるってきた。
その時代からの評判は肉料理。確かな目利きと絶妙の焼き加減で、多くの肉好きを虜にしてきた。

そして今も、filoの看板料理のひとつが短角牛のステーキ。
「今から10年近く前に、短角牛に出会いました。最初に食べたのはもも肉のステーキ。それが単純に、すごく美味しかったんです」。
以来、最も美味しい瞬間を求めて試行錯誤し、現在のひと皿にたどり着いた。

「肉を焼く上でたいせつなのは温度と湿度。低温で中までじっくり火を通しながら、表面を固めて香ばしい焼き目をつけていきます。同じ低温でも真空低温料理だと、湿度が高すぎて肉が蒸れたような味になる」

フライパン、コンベクションオーヴンを駆使して、焼き目をつけながらも肉の内部の温度が十分に上がるよう気を配る。
「短角牛は一旦55度ぐらいまで上げるけど、肉によって適温は違います。鹿肉は脂肪分がないので55度だとなんか生っぽいし、豚肉はタンパク質のせいだと思うけど適温のストライクゾーンがけっこう狭い。牛も牛で、個体差がありますし」

牛肉の王道といえば黒毛和牛。しかし中村さんは短角牛にこだわる。
「黒毛(和牛)はどんな部位でもステーキで食べられるけど、短角の場合は食べられる部位と食べられない部位がはっきりしている。そういう意味では、ちょっとジビエに似ているかもしれない」。

「季節によっても味が違いますよ。夏の牛は水を飲んでいるから、肉も少し水っぽいというか淡白。あと短角牛の出荷月齢は22ヶ月から23ヶ月ぐらいですけど、もう1年ぐらい肥育した方が断然美味しい。分析の専門家に言わせれば22ヶ月だろうと32ヶ月だろうと旨味成分は変わらないけど、『美味しさ』ってグルタミン酸の量じゃなく、食べたときに感じる風味や食感なんですよね」。

「短角牛はメイラード反応(※)がおきずらいので、表面を焼くときにバターを加えます。人によっては砂糖や味醂を塗る人もいますよ」


料理を通して、短角牛生産者や販売者などと交流してきた中村さん。肉の持つポテンシャルの高さはもちろんだけど、「彼らと一緒にやっていきたい」と生産現場にもとことん惚れ込んでいる。
filoとはイタリア語で「糸」。糸のように強く自由に食材や生産者と食べる人を繋ぎ、つくり手の思いを伝得ていく店になるのが、中村さんの願いだ。



繋ぐ思いは食材生産者だけじゃない。器も県内作家の作品を使いたいと、ギャラリーや展示会に足を運び、気に入った作品を購入。食材との組み合わせを楽しみながら、ランチやディナーで惜しげもなく使う。

「お客様一人ひとりの料理にきちんと手をかける。そんな風で、ついつい肉の切り出しから考えちゃうので、ディナーだと1日5組くらいが精一杯かなあ」。

聞くこと、触ること、嗅ぐこと、見ること、味わうこと。
そして感じること。
五感で岩手を楽しむ。filoで待っているのは、そんなひととき。

中村さんのシャイな笑顔も待っていますよ。

※メイラード反応…食材が加熱調理によって茶色くなり、
香ばしい風味を醸し出すこと。

<filo フィーロ>

イタリア料理をベースに、短角牛をはじめ鹿やホロホロ鳥、季節の野菜など岩手産の食材を積極的に使用。1階には大理石のカウンターテーブル(5席)、メインダイニングの2階は落ち着いた雰囲気のなかでコース料理を楽しめるテーブル席(15席)がある。
〒020-0871 岩手県盛岡市中ノ橋通1-3-21
TEL:019-613-9005
ランチ:火〜日/11:30〜13:30 ディナー:火〜土/18:00〜22:00

<中村昌シェフのこと>

岩手県盛岡市生まれ、父の仕事の関係で移り住んだ北海道の居酒屋でバイトをしたのが料理にふれた第一歩。22歳で札幌のレストランに入社、料理の面白さに目覚めていく。34歳で盛岡に帰郷、人気のダイニングバー「ヌッフデュパプ」で料理長を任される。ヌッフ時代から肉料理の腕を磨き、様々な調理にもチャレンジしてきた。好きなミュージシャンは山下達郎、お酒は食事をゆっくり楽しみたいときに少々。好きな食べ物はカレーで、filoの次はカレー屋さんを出すのが目標(笑)とのこと

<Text&Photo 井上宏美>

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