【食のあしあと】
食べ物は、その土地の個性や風土をよく表しています。
「食のあしあと」は、昔から食べられている食材や郷土料理、
長く人々に愛されている名物を探し出し、主観でご紹介していく
イラストエッセイです。岩手はおいしいもんがい〜っぱい。
ある意味門外不出。沿岸地域の最強ソウルフード
豆腐田楽
程よい焦げは焼き手の塩梅次第。
端っこがカリカリしているのがおいしい。
久慈市の名前を一躍有名にしたドラマ「あまちゃん」に出て来たのはまめぶだった。あれも美味しい。安部ちゃんじゃないけど、甘いんだかしょっぱいんだかわかんないのがいい。
しかし久慈に行くたび食べてしまうのは、ガツンと塩辛い田楽豆腐だ。店の軒先や産直のテントで炭火にあぶられきつね色に焼けた四角い物体を見つけると、「…食べちゃおっかな、お昼まだだし」とか自分に言い訳をしてしまう。無理もない、表面に塗られたにんにく味噌が放つ香ばしい匂いときたら…! あの匂いの誘惑に勝てる人がいたら、いやぁ会ってみたい。
豆腐田楽は、久慈地域のほか県北でもよく目にする。およそ縦10センチ×横5センチ、厚み2センチ(平均)とかなり巨大な木綿豆腐に竹串を刺し、表面ににんにく味噌を塗りたくり(専用の塗りベラまであった!)炭火やガスの遠火でチリチリと、表面に軽く焦げ目がつくぐらいまで焼き上げる。
こういうバーベキューコンロもあるが、
火鉢のように炭火をぐるりと囲んで焼けるコンロもある。
単純なようで豆腐の堅さやにんにく味噌の味など店によって少しずつ違うのが面白く、ある店で聞いたときは「うちはすりおろしにんにくをしょうゆでのばして味噌に入れる」と言っていた。ちなみに海寄りの侍浜町あたりには甘味噌を使うところもあるそうだ。個人的にはにんにく強め・ウェルダン(しっかり焼き)が好き。
食べどきは、当然ながら焼きたてだ。店先でいい焼き加減のところをみつくろい、竹串を抜いてトレーに載せてもらう瞬間が至福である。カリッカリの表面にパンチが効いたにんにく味噌、相反して中はんもう真綿のようにフワッフワ。そのへんでファストフードを食べるくらいなら、子どもらよ田楽豆腐を食べろと私は言いたい。
たとい焼きたてにありつけなくても市中のスーパーなどでは最初から竹串を抜いてパック詰で売られているからこれを買い、オーブントースターで温めてもいい。夕食のおかずにも、お酒のアテにも最高なのはいうまでもなし(ビール最高)。
味噌はかなりトロトロ。1回塗ってそのまま焼く。
味噌も二度付け禁止(なのか?)
今のところまめぶに水をあけられた感もあるが、久慈の人たちはそんなこと全然気にしていない。むしろ「豆腐は日持ちしないから市外には出せないんだよねぇ」なんて、ちょっと誇らしげに話したりもする。自分たちがいちばん美味しいものを知っている、沿岸の田楽豆腐にはそんな余裕すら感じるのである。
illustration by ENGAWA