【食のあしあと】
食べ物は、その土地の個性や風土をよく表しています。
「食のあしあと」は、昔から食べられている食材や郷土料理、
長く人々に愛されている名物を探し出し、ほぼ主観でご紹介していく
イラストエッセイです。岩手はおいしいもんがい〜っぱい。
筋目としなみの黄金バランス
きりせんしょ
昔バージョンは記事の中に黒蜜が入っていた。
今でも時折、見かける。懐かしい。
モチモチとよく伸び、サクッと歯切れが良い。
「しなみ」を言葉にすると、こんな感じだろうか。お餅やまんじゅうとは似て非なる独特の食感を表現するのは、意外とむずかしい。
先日は東京の方にこの「しなみ」を説明するのに骨が折れたのだが、あれこれ言うより「きりせんしょ」を食べてもらえば一発でわかってもらえるのにぃと思ったものだった。
そう、きりせんしょといえばしなみ、しなみといえばきりせんしょ。
他に比すべき食べものが思い当たらないぐらいである。
そもそもは岩手県央あたりの農家のおやつで、粉の配合や味付けは家庭ごとに違うが、米粉を練った生地を蒸してから黒砂糖やしょうゆの“みつ”で味付けをするのが基本のつくり方。しかし昔は違ったようで「炊いた米をつぶして作っていたんですよ」と教えてくれたのは、矢巾町にある佐々木だんご店の堀美穂さんだった。
佐々木だんご店は、堀さんで三代目にはなるというだんご店。昔から「徳田米」という良質な米がとれた矢巾町で、もともと精米所としてスタートしたこともあり、賃餅をきっかけに餅菓子の製造を手がけるようになったとのこと。炊いた米でつくる例のきりせんしょはお祖母様が営んでいた時代のことで、限りなくお餅に近いがゆえ、しなみも今とは比べ物にならないくらい強かったそうだ。
そんな堀さんは、日々さまざまな餅菓子をつくる一方で、夫の秀慈郎さんと「horimoku」という工房を営む木工家でもある。作品は県内外のギャラリーなどに置かれているけれど、きりせんしょの木型も自作しているのははじめて知った。
ここに生地をぎゅうと押し付けると筋目ができる。
ずっと使っていると、この山型がすり減るのだそうだ。
木型はきりせんしょ表面の筋をつくるのに欠かせない道具で、以前お話を聞いた別の農家のおかあさんは「近所の大工に頼んで作ってもらう」と言っていた。そう聞いて改めてきりせんしょを見直すと、なるほど作り手によって筋の幅や長さが違う。ここに大きい小さいや色黒や色白と見た目の違いも加わり、きりせんしょの世界も百花繚乱と言ったら大げさか。
佐々木だんご店のきりせんしょは、小ぶりでカフェオレのような色みに筋目が4本。木型の刻みの幅が細すぎると筋がつかないそうで、しなみ加減と大きさのバランスをとっての4本なのだろう。かぶりつくと、モチっとした歯ざわりが小気味いい。しかも小さいので2個3個とつい手が伸びる。平和な見た目に騙されてはいけない、危険なきりせんしょなのである。
昔に比べて格段に少なくなったとはいえ、岩手はまだまだ米粉を使った和菓子「べんじぇもの」の王国だ。
工場を持つ餅菓子メーカーもあるが、基本は家族で営む小さな店がほとんど。それぞれに得意があって、名人と称されるような店には同業者も通い作りかたを教えてもらうことが当たり前だったという。
堀さんのお祖母様も、紫波町日詰地区で名人とうたわれていただんご屋に通っていた時期があったそうだ。伝統とは違うけれど、懐かしい味というのは、こんな風に店から店へバトンリレー方式で受け継がれてきたものかもしれない。
しょうゆだんごはやさしい。
岩手の人のようである(ポエム)。
そんな堀さんのバトンは、もちろんお祖母様からだ。「あまり手を加えると別なものになってしまうから」と守るものは守る一方で、地元の素材を使うことを心がけたり季節商品もどんどん世に送り出している。定番のしょうゆだんご、黒豆の塩気がたまらない豆大福も美味。商品は、矢巾町のショッピングセンター「アルコ」ほか、紫波町の「なんバザホール」(※月、水、金)、盛岡市の産直「花山野」で手に入る。
佐々木だんご店
019-697-3001
illustration by ENGAWA