「育つ家」をお渡しするときには、
できるだけ、リーフを作った理由や取材させていただいた
オーナーさんご夫婦の思いもお話しさせていただいてます。
新しいものをつくり続けるのではなく、
今あるものを生かして、長く住み継いでいく。
そこから生まれる工夫や知恵こそを大事にしたい。
配布先では、そんな思いに共感してくださる方が多くて、
みんなが少しずつ未来地図を描きなおしはじめているんだなと
思うようになりました。
だから、きっと大丈夫。そんなことを感じる春です。
さて、WEB版「育つ家」の最終回。
年に一度の夫婦だけのお月見、薪ストーブの暖かさ。
穏やかな時間が流れる、吉田さん夫婦の物語です。
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ひとが集い、笑いながら喰らうこと。
ずっと昔から紡がれてきた、幸せのルール。
—盛岡市 吉田さんご夫婦
<第3話>
果樹農家としてブルーベリーやリンゴを育てる一方で、趣味の時間も楽しんでいる。キッチンの棚に並ぶコーヒーカップや湯呑みは、奥様が陶芸教室に通ってつくりためてきた。
「これは『青石』といって、昔は梁川のあちこちにありました。
濡れると、青みを増してきれいなんですよ。
祖父は『庭には生きた石を置け』と、この青石をたくさん運んできて庭をつくったんです」
浴室やトイレ、寝室などはLDKの奥に集約。他者を迎え入れる大広間と生活空間をきっちり分けたおかげで、家族のプライベートも守られる。
その上で奥さまは「人を招くことで家ってきれいになるのよ」とおっしゃる。
もちろん断捨離は必要だけれど、美しく暮らすには“ホムパ”、つまり多くの人から見られる機会をつくることの方が大事かもしれない。
LDK側の壁や天井は調湿効果の高い珪藻土。少々の傷なら、刷毛で塗り直してもいい。メンテナンスのしやすさは自然素材ならでは。
生活動線を考えて、キッチンや廊下、大広間などにコンセントを設置したおかげで、こんな効果も。
「主人が掃除機をかけてくれるようになりました。
コンセントの場所がとてもいいんですね」
大広間で変えたのは縁側部分。庭を一望できるように大きなサッシ窓を入れ、縁側はくつろげるよう畳敷きにした。
この場所で、年に一度だけ夫婦ふたりで行うことがある。
「庭のあの松の木の向こうに月が登るのが、ちょうど中秋節の日なんです。
その夜は電気を消して、月を見ながらゆっくりお酒を飲むんですよ」
子供たちが巣立ち、夫婦ふたりでどう暮らしていくかを考えた。
「家とは集まって笑って、食べる場所。
人が来ることでエネルギーがもらえるし、新しいアイデアにも出会える。
そういう暮らしが一番いい」
吉田さん夫婦は声をそろえる。
それでも時にはこんな風にふたりだけの時間を楽しむ。
いい住まいとは、いろいろな物語が生まれる場所なのだと思う。
<終わり>
……P.S.
取材日から半年後、冬に吉田家を再訪。
「ここで沸かした湯で飲むコーヒーが楽しみ」と仰っていた
薪ストーブに、火が入っていました。
令和3年のお正月は、遠方の家族も帰省せず
「生まれてはじめて夫婦ふたりだけのお正月でした」。
それでも、隣近所の友人知人が顔を出してくれたのだそう。
来年は、もっと大勢で、暖かい薪ストーブを囲めることでしょう。
吉田さん夫婦
子供の独立を機に、築56年の平家をリフォーム。家の歴史と記憶を大事にしつつ住みやすさも追求。玄関を中央に、家の右と左がまったく違う雰囲気になっている
本コンテンツは、てとてのウェブサイトのほか
「株式会社ゆい工房」のホームページでも掲載予定です。
ミニサイズのリーフレットは県内で配布中です。