忘れた頃に、更新するシリーズ
【ごはんとうつわ】
ごはん(食)やうつわ(クラフト)にまつわる徒然を
書いてみたり、過去記事を紹介していくコーナー
と、いうのをはじめます。
今回は、この秋に行う「ゆいてとて」にちなんだもの。
2015年春、九州は福岡県福岡市にあった出版社「手の間」さんに
ぬか釜についてのエッセイを寄稿させていただきました。
あれから4年、ついに念願叶ってぬか釜イベントを開くわけで。
食い物の恨み…じゃない、食い物への思いはだいじだね。
意外と長かったので、3回にわけてお届けします。
お時間のあるとき、お目通し頂ければさいわいです。
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漬物とぬか釜ご飯ー「おいしい」の力を信じてみる
今年の夏も、ご近所の農家さんからたくさんの野菜のおすそわけをいただいた。
うちには猫の額ほどの家庭菜園があるだけなので、夏野菜は基本『もらうもの』である(なんて贅沢な!という声が聞こえてきそう)。特に今年はナスとキュウリがよく採れたらしく、馴染みの農家のおばあちゃんが「…いらねが?(いりませんか?)」と申し訳なさそうな顔で、スーパーのポリ袋いっぱいに採れたてのキュウリを抱えてやってくる。実は前日に別の農家のおじちゃんから、これまたポリ袋いっぱいのキュウリとナスをもらっていたりするのだが、採れたての、イボがまだ透明でトゲトゲしているキュウリは見るからに美味しそうで「いっぱいあるのでいりません」なんてとても言えない。こうして我が家の台所はにわかに「キュウリ&ナス祭り」を迎えるのである。
キュウリやナスは鮮度が落ちないうちに、とりあえず漬物にしてしまう。輪切りのキュウリを塩漬けのシソの実(これも自家製)で軽くもんだ浅漬け、ナスのぬか漬けやキュウリの辛子漬けもよく作る。薄い輪切りにしたキュウリを塩でもんで、酒粕に砂糖やみりんなどを加えた漬け床と和えた「キュウリなます」は日持ちもするので常備菜になると教えてもらった。ちなみに前述のおばあちゃんは、生のキュウリと一緒に自家製のキュウリの古漬けもたまに持ってきてくれる。古漬けは塩加減が難しくて、自分ではまだ漬けることができない。
塩分が健康が云々は都市に暮らす人の言い分で、田舎の食卓での漬物は主役級の顔をしている。キュウリやナスの時期が過ぎれば、秋野菜のダイコンやハクサイを樽で漬けて冬の間中食べる。それに自分で漬けなくても、産直に行けば農家の母さん自慢の漬物がずらっと並んでいる。塩漬けにしたシソの葉でにんじんやごぼうを巻いた「みのぼしなんばん」は秋から冬に出回る大好物のひとつだし、春先にウコギの新芽を刻んで作る「ほろほろ」に入れる味噌大根は塩辛いものほどいい。ワラビやゼンマイなどの山菜も塩蔵しておけば、煮物や味噌汁に使えて便利だ。
ただ地元のスーパーに行けば総菜や揚げ物コーナーがごった返しているので、岩手でもこういうものを食べる家庭は確実に少なくなっているとは思う。漬物上手がたいていお年寄りなのは、漬物の味は記憶と経験の積み重ねで完成するものだからだ。できあいの総菜やファストフードに慣れ親しんだ私たちの世代に、そのわざは受け継がれていない。
<つづく>