てとて が生まれるまで
2010年夏。ホームスパンの作品展案内を手に訪れたそこは、
周囲を高層マンションに囲まれた、築40年の古いアパートでした。
そのくたびれた外観とは裏腹に、室内はさっぱりと明るくて
窓を開けると大沢川原の通りからさーっと風が吹いてくる。
ここなら、長年思い描いていた“作戦”を実行できると直感しました。
借りたばかりの8月。まだ、何にもありません。
ライターとして、ずうっと「伝える」仕事をしてきましたが、
どこかに、伝えきれないもどかしさを感じている自分がいたのです。
人の思考や情熱は揮発性で、私という他人の聞き書きでは
伝えたいことのほんの少ししか伝えられていないのではという焦りです。
文章の持つ「人の心を動かす力」は、身をもって知っていますが
「伝える」やり方は、他にもいろいろとあるんじゃないか…。
そんなとき浮かんできたのが、「てとて」です。
伝え手と受け手、みんなの「手」がダイレクトに結びつく場。
生活のこと、手しごとのこと、食べもののこと。
人でもモノでもいい、みんなに伝えたい!教えたい!と思うことを
みんなで楽しみながら分かち合う場を作ってみたい。
ささやかな作戦(というか妄想)は、
このアパート—司荘8号室と出会い、実行に移されたのです。
動き出した途端、多くの仲間が集まってきました。
お菓子の達人、珈琲マスター、フードコーディネーターに
メディア制作物担当、そしてイベント運営経験者…。
まったく違う才を持つ彼らですが、
一人ひとりのユニークさとフットワークの良さ、
同じ「夢」(というか妄想)を語り合える感性までそっくり。
彼らだけではありません。
ホームスパン作家のYさんはじめ、多くの作り手さんの
ご協力もいただくことができました。
Yさんの棚作り。プロの仕事に感激。
そして2011年5月。
「てとて」のワークショップ「ママゴト会」がスタート。
1回目(5月)と2回目(7月)は珈琲教室を、
3回目(9月)は多肉植物とこけ玉の講習会を開催。
4回目(10月)のフェルト教室は大好評につき、
中級編として第2回、第3回と続きました。
ものづくり、お話会…などなど、今後のアイデアもいっぱいです。
また、このワークショップと併催で、うつわやホームスパンを
販売する手仕事市、無農薬野菜の販売なども行ってきました。
茨城でマダケの竹細工を作っている勢司恵美さんの、
丈夫なだけじゃない、見た目も美しい鍋敷き。
「てとて」は、20人も入れば一杯になってしまう小さな空間ですが
だからこそ人と人との距離が近く、繋がりが生まれていきます。
ママゴト会では、たまたま隣り合った人同士がものづくりを介して
いつしか、旧知の仲のように笑い合っていたりします。
そういうのって、本当にいいなぁと思う。
やみくもにネットワークを広げていくのではなく、
ひとつひとつの小さな出会いを、たいせつにしていきたいと思います。
「てとて」で、何かを見つけていただければさいわいです。
アトリエ てとて
岩手県盛岡市大沢川原2丁目6-12 司荘8号
mail: tetote_inoue★yahoo.co.jp
(★を@に変更してお送り下さい)
「てとて」主宰 井上宏美